冬の虫

バイトが終わり彩子は帰宅した。アパートに向かう途中近所の家から夕食の支度の匂いがして彩子は(シチューの匂いだ)と一人ごちた。彩子はまったく会話の無い自分の家族を思い出した。家族がギクシャクしてるのは全て自分が悪いのに家族を憎む気持ちを自分ではどうすることもできずにいた。不良少女だった彩子は家族と縁が切れていた。

アパートに着いた彩子は窓を見た。立て付けの悪い窓の隙間から小さな虫が部屋に入ってこようと何度も窓ガラスにぶつかっていた。

彩子はふと、普通の家族に憧れる自分を窓から入ってこようとする虫と自分を重ね合わせた。

急に彩子は遠くに逃げ出したくなり、自分の財布と貴重品をバックにいれアパートを飛び出した。その後、彩子を見た人は誰もいなかった。